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水都大阪のシンボル「中之島」で当社が建設を進めていた、大阪市の新しい美術館「大阪中之島美術館」が竣工しました。2022年2月2日の開館が予定されており、大阪の新たな文化芸術拠点の誕生に大きな注目が集まっています。
大阪中之島美術館は1990年に準備室が設置されてから実に30年以上の年月を経ての開館となります。美術館は6000点を超えるコレクションを収蔵し、モディリアーニ(1884-1920)や佐伯祐三(1898-1928)の作品など国内外の近現代美術のほか、大阪を拠点とした前衛美術グループ「具体美術協会」に関するアーカイブズ資料や、近現代のデザインに関する作品資料などを豊富に所蔵しており、大阪から世界へ、文化芸術の発信に、大きな期待が寄せられています。
- 工事概要
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- 事業主
- 大阪市
- 設計・監理
- 株式会社 遠藤克彦建築研究所
大阪市都市整備局
- 工事場所
- 大阪府大阪市北区中之島
- 工期
- 2019年2月~2021年6月
- 工事概要
- S造(基礎免震) 地上5階建
建築面積 6,680.56㎡
延床面積 20,012.43㎡
外に「閉じ」つつ内側に「開く」:黒い箱の中に溢れる光
美術館の建物はシンプルで存在感のある「黒い箱」の外観が特徴です。黒さが際立つ外壁は黒い顔料を混ぜ込んだコンクリート版を使用。ウォータージェットにより表面を削ることで黒色を長期間維持できるようにしています。
黒一色のインパクトの強い外観とは打って変わって、内部は明るい光に溢れた空間が広がります。1階から5階までの吹き抜けから柔らかく光が降り注ぐ立体的な「パッサージュ」により、「さまざまな人と活動が交錯する、都市のような美術館」を実現しています。貴重な美術品を「守る」黒い部分と、市民に対して「開く」光にあふれたパッサージュ、二つの相反する要素が互いを補いながら統合された形態が目指されています。
この設計は国内外から集まった設計提案によるコンペにより、株式会社遠藤克彦建築研究所による提案が選ばれました。また地震対策として建物の基礎には免震装置を設置し、地震の揺れから貴重な収蔵品を保護しています。
BIMをフル活用し、多彩で表情豊かな空間を実現
施工にあたっては、コンピューター上で建築物の3次元モデルを構築し、企画・設計・施工等に関する情報を一元化して活用する「BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)」を導入して鉄骨の建て方のシミュレーションを幾度も繰り返し、精度管理を徹底的に追求しました。
黒い箱が宙に浮かんだような外観が特徴的ですが、内部はパッサージュや大きな吹き抜け、自由度の高い通路など表情豊かな空間を内包しています。これらの多彩な内部空間のために、鉄骨フレームにより「鳥かご」状の構造を構築し、その中に多様な部材を駆使して複雑な空間を実現しています。空中に浮かぶような上階部分の鉄骨を立てるために下階に仮設の支柱を設置するなど、複雑な施工が求められました。
この鳥かご状のフレーム構築に当たり、当工事ではコンピューター上で実際の建築物を再現して施工のシミュレーションを行う「BIM」を導入。
鉄骨建て方のシミュレーションや構造解析を実施し、実際の建物の精度を光波や3次元測量で計測しながら、シミュレーション通りの施工を行いました。
「サステナブル建築物等先導事業(省CO2先導型)」に採択
本施設には環境に配慮した美術館を目指し、随所に様々な環境配慮技術が導入されています。
堂島川と土佐堀川に挟まれた中之島の立地を生かし、河川水を利用した地域冷暖房システムを公設美術館として初めて導入。「ひとつの建物」という枠組みを超え、中之島エリアという地域として、全国トップクラスの省エネ・省CO2を実現しています。
そのほかにも熱源の多重化や水蓄熱槽の設置による非常時を想定したエネルギーマネジメントの実施、室内の人数に応じて換気・空調を行う「人認識画像センサー」などの活用により、環境負荷の低減を図っています。
さらに開口部の少ない建物のデザインは冷暖房効率を向上させ、熱負荷の低減に寄与し、美術品を保護するための温湿度環境の効率的な確保にも役立つなど、建築デザインというアプローチからも環境に配慮した建築物となっています。
これらの取り組みにより、本施設は国立研究開発法人建築研究所の評価を通じ、国土交通省により「サステナブル建築物等先導事業(省CO2先導型)」に採択されました。
周辺環境に配慮した施工への取り組み
敷地北側の地下には当社も施工に携わった京阪電鉄中之島線が近接しています。発注者・設計監理者と協議したうえで、北面のスロープに用いる盛土をスタイロフォームへと変更し、土圧を低減させることで、工事によって同線に影響を及ぼさないよう配慮しました。
近隣にお住まいの方々に対しては、ご迷惑を最小限とするよう、仮囲い内側への防音シートの敷設、騒音・振動・粉じんの数値管理、デジタルサイネージによる週間工程のご案内を行いました。また、敷地の角については仮囲いに透明のパネルを使用し、死角を無くすことにより、自転車、歩行者の交通事故防止を図りました。
また、協力企業の作業員に対しても出来る限り公共交通機関で通勤するよう呼び掛け、市街地の交通量低減、CO2排出量削減に努めました。
中之島地域における豊富な施工実績
本施設が所在する中之島周辺には当社が施工に関わった施設が多数所在しています。
大阪中之島美術館の誕生により、隣接する敷地の国立国際美術館・大阪市立科学館(いずれも当社施工)と共に中之島エリアの文化施設の一層の充実が期待されています。
館長ごあいさつ
大阪中之島美術館 館長菅谷 富夫様
大阪中之島美術館は2022年2月2日に開館します。1990年に準備室が設置されてから30年―バブルと呼ばれた時代に産声を上げ、その後の大きく厳しい社会変化を乗り越えてのオープンです。
「30年」は、美術館の開館準備には長すぎる年月だったかもしれません。しかし、作品収集にとってはとても実り多き日々でした。佐伯祐三作品群の受贈に始まり、アメデオ・モディリアーニやルネ・マグリット、フランク・ステラなど、時代を画したアーティストの代表作の購入、さらには市民の皆さまから多数のご寄贈を賜り、今では6000点を上回る国内有数のコレクションを形成することができました。
大阪は2025年の大阪・関西万博に向け、新たな未来図を描こうとしています。しかし昨今の新型コロナウイルスの流行が、描きかけの図に濃い影を落としているのも事実です。私たちは、このウィズ・コロナ、アフター・コロナの社会を生きる美術館として、最新の設備をもつこの個性的な建築を拠点に、来館者の安全安心を確保するとともに、新しい美術館としての役割を果たすべく準備を進めています。
多くの方々に足を運んでいただける展覧会の開催はもちろん、訪れること自体が楽しみとなるような施設や機能を備え、市民の皆さまにとって、「ここから始まるアート」を動かすプラットフォームとなることを、大阪中之島美術館はめざしています。
施工現場から
大阪支社 建築部
統轄作業所長柳田 茂
大阪中之島美術館は構想から30年以上を経て着工されました。国内外から注目を集め、世界に誇れる美術館を目指して計画されており、大阪市関係者をはじめ、市民の方々から大きく注目される工事でした。
当施設は複雑に連なるパッサージュや大きな吹き抜け、自由度の高い通路や開口を実現するため、非常に複雑な構造となっています。節や工区ごとに構造解析を行い、鉄骨のたわみ量や仮設支柱の部材寸法を算出し、現場施工に反映させることにより、精度を確保しました。
市街地の工事であり、近隣居住者に対し可能な限り影響を低減することが重要な課題でした。防音シートの設置やアイドリングストップの励行による騒音、振動、粉塵の低減を図りました。また作業予定を関係する皆様にこまめにご報告することでご理解を得ながら工事を進めるよう心掛けました。
無事に竣工を迎えることができ、関係者各位へ感謝申しあげますと共に、大阪中之島美術館が市民の方々から長く愛される施設となりますことを心よりお祈り申しあげます。