CSR
当社は、経済産業省と日本健康会議が共同で選定する「健康経営優良法人2024」(大規模法人部門)に認定されました。ただし、この認定取得は健康経営への取り組みの第一歩にすぎません。そこで、ニッセイ基礎研究所生活研究部ジェロントロジー推進室ヘルスケアリサーチセンター研究員の乾 愛(いぬい・めぐみ)様をお招きし、今後の健康経営の取り組みの在り方、女性活躍、障がい者雇用などをテーマに当社の錢高 久善と語り合いました。
単なるヘルスマネジメントでなくプロダクティビティマネジメントも考える
健康経営について、考えを整理した中でわかってきたのは、残業時間や健康診断受診率などのKPIが達成されても「健康経営にはならない」ということです。健康経営とは、単純なヘルスマネジメントではなくて、プロダクティビティマネジメントも考えなくてはいけない。つまり、健康経営に取り組むことで生産性がどう向上するかを考えないと本質的な意味合いを見失いかねないということです。
確かにKPIをクリアしたからといって健康経営が実践されているとは一概には言えません。特に建設業では安全な作業環境で人命最優先(労働災害の防止)という視点で健康経営の考え方が浸透してきました。一方、その裏では、従業員の生活習慣が心疾患や循環器の疾病につながる可能性が見過ごされ、ベテランの技術やノウハウが伝承されず人的資本が失われることが懸念されました。建設業において健康経営を実践するということは、逸失利益の損失回避、つまり人的資本を守ることにつながるという意味合いが大きいのです。
人的資本を守るという視点は大切です。当社では特定健康診断の受診率向上やノー残業デーなどを実施していますが、健康経営の「その先にあるもの」をどう見据えるかだと考えています。それぞれの取り組みは、健康経営における重要なファクターであることに間違いはありません。しかし、それらは健康経営の十分な条件にはならない。例えば、残業時間の削減にしても、根本的に仕事のやり方を効率化し、生産性を高めた結果としての残業時間削減があるべき姿です。
もうひとつ大切なことは、「生み出された時間で何をするのか」です。家族と過ごす時間を作る、新しい趣味を見つける、今まで接点がなかったコミュニティに参加してみるなど、新たな取り組みにチャレンジしてみることも大切でしょう。我々の仕事は、ともすると決まった仕事の繰り返しになってしまいます。新しいアイデアや付加価値をどう織り込んでいくのかを考えたとき、自分の枠の外にあるものにも興味を持ち、新しい知見を会社に持って帰ってもらう、その循環が必要になってきます。そんな循環を生み出すきっかけのひとつになる、そこに健康経営に取り組む本当の意味合いがあるのだと思っています。
男性育休も女性活躍も基本はニュートラルな視点で推進を
ワークライフバランスは、2024年度から建設業界で長時間労働の規制も始まり注目されています。ある調査では、時間外労働の有無や程度が学生の就労希望に大きく影響することが明らかにされています。特に、時間外労働や産休・育休制度の有無、女性割合・女性管理職比率等については、情報公開をすると女性の検索率が高いこともわかっています。 残業時間の規制や育休制度などがなかった管理職の世代と、それらの制度が「当たり前」の中で働き始めた世代とでは認識・意識が大きく異なっています。「生み出した時間をどう活用しようとしているのか」も含めて、管理職と若年者層との間にある認識や理解のギャップを埋めることが大切です。
管理職と若年層のギャップを埋めるのは「対話」で、これがとても重要です。対話がないままでは、部下が組織の中で健康なのかそうでないのかを把握できないでしょう。従来は「部下をきちんと見ない」ままに「これをやっておいて」と放り出しておしまいというケースが多いと感じます。
一方、育児休暇や女性活躍については、私の考え方は「ニュートラルでいこう」です。男性の育児休暇も、「周囲に迷惑をかけなければ」という付帯事項がついてしまって良くないかもしれないのですが、取れるのであれば取れば良いと思っています。
女性活躍についても、女性だから男性だからという区分けではないような気がしています。建設会社に来る人は最初から部長や管理職になりたいという人よりも、「設計をしたい」「施工管理をしたい」と希望を持った人の方が多いように認識しています。設計をしたい人が「次は管理職に昇進」となると、結果として仕事のモチベーションが下がってしまうことも考えられます。性別関係なく、「組織を動かすことにやりがいを感じられる人」を登用していきたいと思います。
障がい者の雇用については、ようやく取り組み始めたところです。これから、さまざまな試行錯誤をしてみてというかたちになると思います。
従業員一人ひとりの健康なくして「会社の健康」もない
建設業に限らず、男性の育休取得意向に大きく影響を与えるのは、直属の上司からの意向確認であることが判明しています。自分の業務を把握していて業務調整がある程度できる立場、職位にある人から意向を確認してもらえると育休の取得意向が示しやすいことが分かっています。ただ、夫婦以外に育児協力者がいる、祖父母と同居しているなど、取得の必要性は個別の家庭に応じて異なりますので、制度を押しつけるのではなく、必ず意向確認をしてどの程度の業務調整が必要なのかを個別に判断していくことが重要だと思います。
女性活躍に関しては、男女関係なく推進することが大変重要なポイントになります。昨今では、管理職にあたる年齢層の男性を含めた更年期障害や、介護の問題についての影響が指摘されています。障がい者雇用に関しては手探り状態とおっしゃったのですが、これは日本のインクルーシブ教育が未熟なところもあるため、まずは社会全体で進めなければいけない課題だと思っています。企業側は個別の状況に応じて柔軟に対応していくことが求められていると感じます。
健康経営とは、企業の安寧な状態、健全な状態を保つことであると私は考えております。企業の魅力を多くの人たちに知ってもらい、保ち続けることが健康経営の本質につながると思っています。企業側は、魅力をきちんと知っていただくために、情報発信し続けることが大事だと思います。
今回、健康経営優良法人の認定を取得し、改めて思うのは、やはり従業員一人ひとりの健康なくして会社の健康もないということ。取り組みを一つひとつ着実に実践していることを広く社会、現場で一緒に仕事をしてもらう協力会社の皆様にも認識をしていただきたい。それが、結果として安全や品質など健康経営を構成する大切な要素になっていくのだと考えています。
今回の認定取得はもちろんゴールではないし、これで「何かが変わった」のでもありません。重要なのは「これから」です。スタートなのだと私の中では整理しています。